後ろ向きには最適の日々

雑駁なあれこれ

本の話だけ

 先月発売されたニール・スティーヴンスンスノウ・クラッシュ』を読みました。最近のハヤカワ文庫(早川書房)は「世界のリーダーはSFを読んでいる」というキャッチコピーとともに、そういうフェアを行っています。テッド・チャンあなたの人生の物語』の帯に「オードリー・タン絶賛!」とかロバート・A・ハインライン月は無慈悲な夜の女王』の帯に「イーロン・マスク愛読!」などとバカでかく書いてあるのです。私なんかは「なんかビジネス書っぽくてやだなぁ…」などと思ってしまったわけですが、最近SFがビジネス界隈にも利用されつつある「SFプロトタイピング」の流行りを汲んでいるからでしょうし、出版社の意向もわからんでもないです。

 で、このニール・スティーヴンスンスノウ・クラッシュ』もそのフェア内で紹介されています。というのも、今流行りの「メタヴァース」という言葉を作ったのも、「アバター」の概念を生み出したのもこの『スノウ・クラッシュ』なのです。しかも、この文庫版『スノウ・クラッシュ』は先月発売されたのですが、もともとの原作は1992年(日本では1998年)に出版されたというのだから、著者の先見の明は凄まじいものです。その後、2001年に早川書房で文庫化され、さらにそこから20年経った今になって新たに復刻されたのですから、本自体のインパクト(とそれを望む声)が強かったのでしょう。

 まぁ、そういうビジネス的な見方はおいといて、私は初めて読みましたが(再販が決まってSNSでSF界隈がざわついていたのでそれに乗っかって)、面白かったです。想像していたよりもアメコミのようなアクション小説で、偏った日本感もあって(主人公が刀を背負っていたり、スシ・Kという名のラッパーが出てきたり)、面白かったです。かと思えば、後半はしっかり純度の高い言語SFになっていたり、宗教の話とか(この辺は私はちんぷんかんぷんだった)、ウイルスの話とか、いろんなテーマがごちゃまぜになっていて楽しめました。

 

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 それにしても、今でこそ「メタヴァース」の考えは馴染みがありますが(セカンドライフとかもありましたしね)、1992年時点で読者はイメージできてたのでしょうかね…

 

 その他フィクション以外で最近読んだもの。

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 三中信宏『読書とはなにか』、粂和彦『時間の分子生物学』を読みました。『読書とはなにか』は面白かったです。三中氏は生物学の研究者で特に統計に関する本も色々出されていているのですが、それとはまたテイストの異なる読書に関する本です。内容はもう帯にも書いてあるとおり、「狩人のように本を読みなさい」と、そのまんまです。著者はかなりの読書家らしく、読んできた本の書影が読み方の例としてちょこちょこ載っているのですが、その写真の本がどれもバカ高くてクソ重い(物理的に)ものばかりで、なんというか「コレクターが自分の収集物の自慢してるみてぇだな」って感じもして微笑ましかったです。

 『時間の分子生物学』は、あまり新しい知見がなかったなぁ、という印象。私は毎年生物学の講義を受け持っていて、その中で生物時間の話もするので、「なんかいいネタ仕入れられたらな〜」なんて思って手にとったのですが、そういうヨコシマな気持ちがあると駄目ですね。本自体は悪くないと思うのですが、もともと原本が出版されたのが2003年で(買ってから知った)、そりゃ新しいことも別に載ってないわなぁ〜って感じでした。やはりたとえ一般向けのものだとしても、専門書(特に生物学の分野)はできるだけ新しいものを読むのが良いです。