後ろ向きには最適の日々

雑駁なあれこれ

爆弾を抱える

 歯を抜いてから一週間ほどが経った。抜く時は「早く終わってくれ!」とただただ祈っていたし、抜き終わった直後は安堵していたのだが、実は抜歯後の方がしんどかった。というか今現在も。何がきついって、痛みが全然引かないのだ。だがその痛みが元々そういうものなのか、もしくは手術自体に問題があって痛んでいるのかの判断がつかないのだ。なのでおいそれと病院に連絡をとることもできない。もしブルブル震えながら病院へ行き「痛いんです…」といって診てもらって「あ、そういうもんですよ」なんて言われてしまったら、恥ずかしくてもうその病院には行けないだろうし。

 鎮痛剤と抗生物質は貰っていて、それをのむことで「痛みがおさまった気がする」程度の効果はある。なので痛みが出る度にバクバクのんでいたのだが、そんな使い方をしていたのであっという間に薬は減っていき、今は少なくなった錠剤を節約しながらのんでいる状況だ。「いや全然足りねぇわ箱ごと寄越せや…!」と悪態をついていてる。あと、貰った薬には「痛みが出たら服用するモノ」と「一日3回食後に服用するモノ」の2タイプがあるのだけど、この「一日3回食後に服用するモノ」がやっかいなのだ。そもそも一日3回もご飯を食べないから。だいたい2食だし、食欲がない時は1食の時もある。そして食べる時間もバラバラで深夜遅くに食べることも多い。そういうスタイルの場合、いつ服用するのが正しいのか。これが難しい。それでいて、できるかぎり用法用量には従いたい(なんか怖いから)わけだから、もうパニックだ。食べたくもないパンを無理やりねじ込んで昼食と見なし、薬をのむ日々が続いていた。「いや逆に体調悪くなるわ!」と虚しく叫ぶことしかできない。

 そうやって薬をのめばある程度痛みは収まるのだが、しばらく経つとまた痛みが出てくる。すぐに鎮痛剤を飲める状況ならばよいのだが、場所と時間を問わずジクジクとした痛みが現れるので鬱陶しい。電車に乗ってても、車を運転してても、講義で喋っている間でも、痛みはこちらの都合など関係なく現れる。そうすると冷や汗が止まらない。幸いなことに、今はご時世的にも常にマスクをしているので腫れは目立たないが、痛みだけは現れている。そうすると、まるで自分が爆弾を抱えているような気持ちになってくるのだ。誰にも見えないところで、爆発寸前の爆弾を抱えている(というか爆発しかかっている)。午後の乗客の少ない車両の中、男子高校生がテストの話をしている横で呑気に座っているように見えるだろ?爆弾を抱えているのだ。赤信号で止まったとなりの車、冴えない男がラジオを聴きながら運転しているように見えるだろ?爆弾を抱えているのだ。午後イチで眠気と戦いながらウツラウツラ講義を聴いているだろ?その教卓で喋っている男は爆弾を抱えているのだ。日常にスリルを。平和ボケした世界に鉄槌を。そして誰にも見えないマスクの下で、男はニヒルに笑うのであった。

 明日は病院で抜糸をしに行きます。その糸が爆弾の導火線ではないことを願うばかり(オールドタイプな爆弾のイメージだな)。