後ろ向きには最適の日々

雑駁なあれこれ

vs虫歯

 相変わらず大学が自粛中で講師の仕事もないので家に引きこもって過ごす日々が続いている。家から出ることがほとんどないのでガソリン代もかからない。ガソリンがずるずる安くなっているのにもったいねぇなぁ…という気がしないでもないが、世間全体がそういう感じだから仕方ない。

 参加する予定だったライブやイベントも軒並み休止・延期している。それはまぁ仕方ないところであるが、ひとつだけ困ったものがある。それが歯医者の治療だ。3月の定期検診で「虫歯になりかけの所があるから次回治療しましょうねぇ〜」と診断され、本来ならば4月上旬にその治療を予約していたのだが、それがこの全国的な自粛要請で5月中旬まで延期になってしまった。この時点ではまだ慌てていない。なんてたって大人だから。「まぁ仕方ないですよねぇ〜」なんて華麗な受け流しができる程度にこっちは大人なのだ。ふふん。しかしその延期になった5月中旬の治療の予約が、再度6月まで延期になってしまった。今日その電話をもらったのだ。流れが変わった。

 こうなってくると本当に話は変わってくる。なんてたって虫歯って急に痛み出すものではないか。徐々に「なんかちょっと違和感あるなー、あーだんだん痛むようになってきたなー」ってものでは決してない。ふとした時に急に痛みに襲われるもので、0か1かだ。そんなデジタルな痛みだからこそ、余計恐ろしい。もしかしたら今夜にでも激痛に襲われるかもしれないし、治療日まで痛みが発生せず平穏に暮らせるかもしれない。でももしかしたらシャワーを浴びている最中に痛みが爆発するかもしれないし、あるいはスーパーでお買い物をしている時に激痛に襲われて床にうずくまる羽目になるかもしれない(店内は大騒ぎだろう)。きっと度重なる予定日の変更でその可能性は高まっているはずだ。もう治療の日までぶるぶる震えながら過ごしていくしかないのだ。いつ爆発するかもわからない時限装置を歯に埋め込まれているような気分である。なんて非人道的な拷問だろう。本当に日本なのだろうか。あるいはさながら毒入りカプセルを奥歯に埋め込んだスパイだ(その場合自ら噛んで自害する自由は与えられてないのだけれども)。

 そんな不安定な精神状況に陥ってしまったので「もし急に痛むようなことがあれば連絡してくださいね〜」なんて電話越しに言われても、こっちは脂汗がじんわりと浮かんでいる。でも大の大人がビビってるとも思われたくないので「あーそうですかぁ〜、わっかりました〜」なんて平静を装うしかないのだ。きっと知らないんだろうな、受話器越しの相手がぶるぶる震えていることを。きっと知らないんだろうな、「当院LINEサービスを始めたので、そちらで気軽に予約変更もできるようになったんですよ〜」というお知らせに対して「へぇ〜そりゃ現代って感じで便利っすねぇ〜登録してみますわ〜」と飄々と答えている相手が実は手汗が止まらなくなっていることを。これから毎日「はぁはぁ…今日は大丈夫だった…」と家の柱に一本ずつ傷を入れて暮らしていくしかないのだ。治療も前なのに生きた心地がしていない。歯の痛みが世界で一番苦手なのだ。