後ろ向きには最適の日々

雑駁なあれこれ

生物多様性と経済活動

 昨日「多様性と経済活動は相性が悪い」的なことをうっかり書き、そこから一日ぼんやりとそのことについて考えてしまったのでもう少しだけ(前も似たようなことを書いたかもしれませんが)。

 ここ数年耳にする機会もぐっと増えた「多様性」というワードですが、元をたどると「生物多様性」からきているのでしょう。生物多様性というのは読んで字の如くですが、地球には人間だけじゃなくて色んな生物、そして生態系がありますよーってことです。具体的に、生物の多様性に関する条約では、「すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む」と定義されています。

 それが近年ではSDGsの目標なんかにも盛り込まれています(14番目や15番目の『海の豊かさを守ろう』『陸の豊さも守ろう』とか)。なぜ生物多様性を守らなくちゃならんかというと、森林資源や遺伝資源を保全・維持していくことが、持続可能な資源利用につながっていくということなのでしょう。例えば遺伝的多様性を保全していくと、それが人間の医薬品研究につながる可能性もあります。調べてみると、人類の医療を支える医薬品の成分には5〜7万種もの植物からもたらされた成分が利用されているそうで、まだ未発見な物質が現在解決できていない人類の難病の治療に役立つ可能性もあるわけです。それはだいぶ人間目線な理由かもしれませんが、まぁ人間だけの地球じゃないんだからできるだけ生物多様性保全していきましょう、という願いからできた目標なんでしょう。

 さて前置きと耳ざわりの良い話が長くなってしまいましたが、ここで話は少しだけそれます。私の住んでる地域は農家さんが多い地域で、この時期は田植えも終わり、植えられた稲もぐんぐんと育っています。田には水が張り、緑いっぱいの景観となっています。いわゆる「美しい自然」「自然豊か」という言葉(個人的にはあまり好きではない言葉ですが)からイメージされるような光景が家の窓からも外を眺めると広がっております。

f:id:sibainu_08:20210523223854j:plain

 私の家も長年農家を営んできたので見慣れた光景ではあるのですが、農業(に限らず家庭菜園などでも)ではたくさん農薬を使います。農薬を使うことによって、虫や雑草をたくさん殺します。それは農業の生産性を上げるためには避けては通れない行為です。生産性の良し悪しはその年の収益に直結しますし、それはすなわち、自らの生死に関わることですから。いかに効率の良く害虫や雑草を除去し稲を病気から守るかは長年の課題となっています。つまり、農業では生物多様性を排除し、一律で効率の良く目的の生産物(米や野菜)を生産することが目標であると言って良いでしょう。もちろん今では逆に無農薬であることに価値を持たせブランドとする農作物を作ってるところもありますが、やはり生産性は格段に落ちます。単に収量や質では太刀打ちできないから、無農薬であることを謳い、価値を持たせているのではないでしょうか(と私は思っています)。無農薬を全否定するつもりはないですが、やはり効率の良い方法があればそれを使うのが農業ではないかと私は思うのです。そうやって農業は進化・発展してきたのですから。

 また、わかりやすく農薬の話を書きましたが、これは別に農薬に限ったことであはりません。水田管理では効率よく水を田に流し、また排水させることが重要です。そのため、現在は田の周りにはコンクリートの側溝が張り巡らされている水田が多いです。一昔前まではコンクリートではなく土を直接掘ったような側溝だったのが、コンクリート製に置き換わっているのです。すると、それによってコンクリートの壁をよじ登ることのできないカエルの数が減ったのです。カエルの手足には吸盤がついているイメージだと思いますが、実は吸盤のついていないカエルも数多くいます。トノサマガエルやヒキガエルなんかは吸盤がついていません。そうすると、それまで土を掘ったような斜面であればよじ登ることができたそれらの種が、コンクリートの垂直の壁を登れなくなるのです。これも、いうなれば生物多様性を減少させているといえるでしょう。

 というように、実は生物多様性保全と農業の発展は相反する行為なのです。しかしそこで「じゃあ生物多様性保全するために昔ながらの方法に戻してください、農薬も使わないでください」なんて農家に言ったらきっとブチ切れられることでしょう(もしくは鼻で笑われるでしょう)。農家は生き物の保全のために農業をやっているのではありませんから。生物多様性保全は持続可能な開発のために重要なことだとは思いますが、そのために貧乏くじを引く人間が出るのは、それはちょっと変なのでは?と思います。なんだか先進国が散々これまで開発を行って環境を破壊してきて、急に「いやこれからは生物多様性が重要だ」なんて発展途上国に演説しているような構造に似ている気もしますね。

 なんとなく生物多様性保全に役立っていそうな世間のイメージの農業ですら、実際はそんなわけではいのですから(そもそも農業はもとの自然の状態を人間の手で破壊し加工してできた場で行っているのです)、他の産業もひっくるめると、いかに経済活動と多様性が相性の悪い組み合わせかわかるかと思います。

 そんなことを、ぼんやりと考えた一日でございました。