後ろ向きには最適の日々

雑駁なあれこれ

草むしりの鬼

 相変わらず自粛期間中ということもあり、一日中家に引きこもる生活が続いている。だいたい一日のうち12時間くらい椅子に座ったまま作業なりをしているので、色々とフラストレーションもたまってくる。研究室に車で行っていた時と生活スタイルはほとんど変わっていないのだけど、物理的に移動をするというのは、それ自体が気分転換に一役買っていたのだということを思い知らされるのである。たまに散歩のために外に出て、散歩自体は気分転換になるのだけれども(田舎で良かったと思える点だ)、家に戻ってきて作業途中のPCモニタを見てしまうとげんなりしてしまうので結局プラマイゼロである。

 そうやって家から出ないまま椅子に座り続けていると、どうでも良いことが気になってくる。家の中の色んなものが気になってくるのだ。溜まっていた洗濯物やシーツが気になりだし、ひたすら洗濯機にぶち込み、回すのだ。洗濯の鬼の登場である。普段は週に一回くらいしか洗濯機を回さないのだけれども、鬼が現れるとこれでもかってくらい洗濯機を可動させる。布団カバーとか、冬物の上着とか、カーテンとか毛布とか、あらゆるものを洗濯するのだ。洗濯機もさぞその緩急に驚いたことだろう。「またっすか…!?」とぼやいてることだろう。関係ないぜ、こっちは洗濯の鬼だからな。鬼の形相で洗濯機を睨みつけ、洗い終わったシーツを洗濯カゴにぶちこみ、鬼の形相で外に出て干す。物干し竿のスペースがなくなっても関係ない。ありとあらゆる家のでっぱりにハンガーをかけ、洗濯物を干していくのだ。

 また別のある日には家の中の汚れが気になりだし、急に掃除を始めることもある。壁の汚れとか、キッチンの水垢とか、ありとあらゆる汚れを落としていく掃除の鬼だ。鬼は最近掃除に凝っている。Youtubeで水垢とか茶渋を落とす動画を見て、すぐさま実践している。薬局でクエン酸を買ってきて、流しにぶち撒きラップでカバーをし、時間が経った後にそのラップをくしゃくしゃにしたやつで磨くのだ。驚くぐらいピカピカになるので鬼もニッコリである。「クエン酸くらいの酸性具合ならステンレスにも影響出ないんだなぁ」と感心するばかりである。そして「でも水道の供給管のカーブしているところは難しいな、鬼門だな!」なんてしょうもないことを思いつきガハハと笑うのだ。上機嫌の鬼である。

 そんなわけでこの自粛期間中に色んな鬼を召喚しているのだが、ここ最近は草むしりの鬼の登場回数が特に多い。庭には芝生のスペースと、松の木が伸びるちょっとした庭園みたいになっているところがあるのだが、この季節、そこに雑草が生え始めているのだ。そうすると、草むしりの鬼が現れる。草むしりの鬼は作業着を着こなし(汚れるから)、両手に軍手をはめ(かぶれるから)、鎌を持って現れる(根の張った雑草は大変だから)。そしてひたすら草をむしりまくるのだ。一心不乱に草を抜きまくるのだが、これがちょっと楽しい。特に、記憶の中にある嫌いな奴の顔を思い浮かべながら抜くとより一層楽しいし捗るのだ(別の鬼が顔を出している気がしないでもないが)。そうやって2時間くらい草をむしっていると、当然ながらヘトヘトになる。しかも最近は暑い日々も続いているので汗だくだ。しかし目に見えて分かる程キレイになった庭を眺めると、やはり良い気分になるのだ。心の中の鬼も満足して消え去っている。「あぁ、いい仕事をしたな」と思え、満足した顔で家に戻り、熱いシャワーを浴びるのだ。そして良い気分で着替えて、「ご飯何食べようかな?」などと考えながら穏やかな気持ちで部屋に戻り、作業途中のパソコン画面を見てげんなりするのだ。仕事すすんでねぇし。結局プラマイゼロ。別の鬼が顔を出そうとするのであった。