後ろ向きには最適の日々

雑駁なあれこれ

ハードボイルドの十分条件

 5月15日。日曜日。朝から曇り空な一日でした。特にこれといった出来事もなかったので最近読んだ本の話だけを。今週はアリーベン・ナイム『エントロピーがわかる』、村田沙耶香『生命式』、レイモンド・チャンドラー『長い別れ』を読みました。

 

 ノンフィクション1冊の小説2冊という順調な(?)ペースです。『エントロピー〜』は積読していた今週のノンフィクション枠。エントロピー、そして熱力学第二法則をサイコロゲームを題材にして解説した本。その着眼点は興味深かったし、あと表紙がブルーバックスなのにオシャレ(失礼)だったので読みましたが、説明が丁寧すぎて冗長だった印象。もっと短くもできそうだけど、何もかもわからない最初の状態からエントロピーの概念を学ぶにはこれぐらいがちょうど良いのかもしれません。ブルーバックスは面白い本も多いのですが、自分の理解度のレベルとマッチしてるかどうかはギャンブルです。

 村田沙耶香『生命式』は、単行本が出たときに「そのうち読まなきゃなー」なんて思っているちに文庫版が出てたパターンのそれ。いやー面白かった。傑作です。人が死ぬとその亡くなった人の肉を食べる文化が広まった社会に生きる人達の話(表題作の「生命式」)とか、人間の臓器の動きだけにエクスタシィを感じる人の話とか、簡単に表現してしまうなら「気持ち悪い」話が12本収録された短編集です。しかしどうして「気持ち悪い」と感じるか、それを追求してくとだんだんと何が正常で異常がわからなくなります。我々の普通のことだとしている「常識」というものが、どれだけ危うくて脆くできているかを痛感させられる、そんな短編集でございました。

 そしてレイモンド・チャンドラー『長い別れ』。私はハヤカワ文庫から出てる村上春樹訳の『ロング・グッドバイ』を10年ほど前に読みました。それが先月末に田口訳で創元推理文庫から改めて出版されたのですが、「まぁ訳者違うけど読んだことがあるしスルーするかなぁ」と思っていたのでした。しかし創元推理文庫版の表紙にエドワード・ホッパーの『ナイト・ホークス』が使われていて、それがあまりにもカッコよくて(そして作品の雰囲気とも合っている!)、気がついたら手にとっていました。チョロい読者という自覚はあります。でもホッパーの絵やっぱり好きなのよねぇ…読んだ感想としては村上訳で読んだ記憶は遠い昔のことですが、田口訳のほうが好みかも。村上春樹訳は村上作品のイメージがまとわりつきすぎていますし(それが良さだったりもするけれど)。ちなみに他にハヤカワ文庫からは清水俊二訳も出ている(これが歴史的には一番長い)のですが、そちらは未読です。他のチャンドラーの作品も田口訳でこれから創元推理文庫から出るなら、手を出していきたいところです。

 しかしやっぱりハードボイルドは良いですね。歯の浮くようなキザな台詞や言い回しが無性に欲しくなる時が人間にはあるのだと実感させられます。だからといってたくさんハードボイルド作品に触れてきたわけではないのですが、一番好きなのはディヴィッド・ハンドラーのホーギーシリーズです。チャンドラーのフィリップ・マーロウも好きですが、ちょっとタフガイでかっこよすぎる。ハードボイルドには格好悪さが必要のように思うのですよね。矛盾しているかもしれないですが。ハンドラーのホーギーはかっこ悪くてカッコよくて素晴らしいです。愛犬ルルも可愛いですし。

 

 そんな日曜日でございました。