後ろ向きには最適の日々

雑駁なあれこれ

だから雨は嫌なんだ

 12月7日。火曜日。昨日今日と朝から雨が降り続いておりバカ寒いが日が続いています。寒さだけならまだしも、これだけ雨が続くのは久しぶりで、色々と油断していました。

 昨日は講義のお仕事のため久しぶりの電車移動で、ホームで電車を待っていました。雨だったので傘を片手に持って。そして時刻表通りに電車が到着し、乗り込んで空席を探そうとしていたのですが、雨で車内の床が濡れているのに気づかなかったのでした。不覚でした。車両内、足を踏み出し体重をかけて曲がろうとした瞬間、見事に滑らせ、体の重心をもってかれる私。とっさにもう片方の足を出して踏みとどまろうとします。素晴らしい反射神経と体幹の強さです。なんてたって元体操選手だから(10年前)。しかしもう片方の足を踏み出したときには体は40度くらい傾いており、間に合いません。あわてて手を伸ばして手すりを掴もうとします。が、掴めません。なぜならその伸ばした手は傘を持っていたから。雨め馬鹿野郎が。手すりを掴めなかったので、体はそのまま倒れていきます。こういうときって本当に景色がスローモーションに見えるのです。ゆっくりと視界が傾いていく中、先程掴もうとしていた手すりに顔面(顎)を強く打ち付けます(1 hit!)。そして強打した顎の痛みが発生する前に、膝を床にぶちこみます(2 hit !)。そうやって私は電車の床に倒れ込んだのでした。

 身体がそんな状態にある中、わずかゼロコンマ何秒の間に頭をフル回転させています。まずはすぐに起き上がること。倒れてうずくまったままだと大事になってしまうから。とにかく車内にいる人々を心配させるのは回避したい、と私はまず考えたのでした。もし倒れたままで、車内に親切な誰かがいたとして、その人が電車の停止ボタンを押してしまったらたくさんの人に迷惑をかけてしまいます。こんな状態でも最初に考えるのが他人への配慮なのはさすがです(遠慮して救急車を呼べない日本人の典型みたいなムーブ)。なので、ぶっ倒れても次の瞬間には起き上がっていました。オーキードーキー。これでひとまず大丈夫。非常停止ボタンを押される心配はなくなりました。

 しかしまだ仕事は終わっていません。次に考えるのは、乗っている人たちの「あ、あの人今転んだな」の目線です。ここで恥ずかしくなって起き上がった直後にポーカーフェイスを気取るのは悪手です。そんなことをすれば「あの人、こけた事をなかったことにしようとしとんな」と思われてしまいます。そんなのは無理な話です。だって実際大袈裟にすっ転んでいるのだから。ここでの最適解は、先程強打した顎をさすりながら、でも大丈夫なレベルの痛みですよ、と極めて自然見せることです。顔をしかめて、「痛ぇ〜」と小さい声にだしながらさするとより良いです。そうやって私は、顎をさすりながら車内の空席を見つけ座ったのでした。ナチュラルで完璧な演技でした。阿部サダヲばり。

 そんなわけで、見事な危機回避能力と演技でピンチを切り抜けたのでした。空席に深く座り、一息いれたところで思ったのは「何やってんだ自分は…」ということでした。顎も膝もめっちゃ痛ぇし。諸々ひっくるめて涙が出そうでした。まさか、大人になっても悔しくて泣きそうになることがあるとは思いませんでした。

 

 悲しくなってきたので、その電車では目的地につくまでの間、おもむろにカバンから読みかけの本を取り出し、それを読んで過ごしたのでした。そこで読み終わったのが大森望編『ベストSF 2021』。

 

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 今になって振り返れば「さっき阿呆みたいにすっ転んでたやつがSF読んでんじゃねぇ未来想像してんじゃねぇ」と我ながら思います。

 まぁ、そんなことはおいといて、この『ベストSF』シリーズは竹書房文庫から出ているシリーズの第二弾です(昨年は『ベストSF2020』)。翻訳家件書評家の大森望氏がその年発表された短編SF作品から11本を選び収録しています。それにしれも、表紙デザインが中華でサイバーパンク風味なのは、ここ数年の中華SFの盛り上がりの影響を受けているからでしょうかね。あと、どうでもいいですけどこのシリーズ(というか竹書房文庫のせい?)、値段が1650円と文庫本にしては少々お高いのをどうにかしてもらいたいものです。

 中身は前述の通り今年発表された短編が収録されているわけで、もうすでに読んだことのあるものも3,4本入っていました(ということを考えるとやっぱり高いなぁと)。柴田勝家氏の『クランツマンの秘仏』や麦原遼氏の『それでもわたしは永遠に働きたい』はSFマガジンで読みましたし、柞刈湯葉氏の『人間たちの話』は同じタイトルで短編集が出ていました(その短編集もかなり面白かった)。

 そういった既読のものはおいといてでも、なかなか楽しめた一冊でした。伴名練氏の『全てのアイドルが老いない世界』は、電子版でリリースされていて、買おう買おうと思っているうちにそのままになっていたので、収録されていてラッキィでした。内容も面白かった。伴名氏の伝奇ものっぽい作品がそもそも好みですし、あとアイドルSF(というジャンルが確立されているかはわかりませんが)が個人的ブームなのです。やはり自分の好きなものがテーマとなったSF作品は贔屓目にしてしまうのかもしれませんね。円城塔氏『この小説の誕生』も氏の作品にしては珍しくわかりやすかった。三方行成氏の『どんでんを返却する』はバカバカしくって笑っちゃった。

 けっこうシリアスな作品が多かった印象です。あと、全体的にがっつりSF(個人的には宇宙とか物理学とか出てくるやつのイメージ)はほとんどなくて、伝奇ものが多かった印象(編集者の好みかもしれませんが)。そもそも短編でハードSFって難しいのかもしれませんが…(アイデア勝負の短編作品では特に)。

 そんな『ベストSF2021』のちょっとした感想文でございます。未だ顎は痛いまま。