後ろ向きには最適の日々

雑駁なあれこれ

細胞は、直接ほしがっていた。

 つい先日、日向坂46がビタミンCサプリメント「Lypo-C[リポカプセル]ビタミンC」のウェブCMに登場するニュースを見ました。実際のウェブCM動画も、もちろん私は「か、かわいい…」と持ち前の阿呆ヅラこきながらチェックしました。

 


Lypo-C WebCM|「徳井義実さんの体内に日向坂46」篇 30秒 #ビタミンCマジック ~細胞は、直接ほしがっていた。~

 

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 何よりオレンジの衣装&帽子がベリーベリーキュート(Lypo-C公式サイトより)。

 

 で、今回のこの記事も別にこの日向坂46が可愛いということだけをただただ書いていてもいいんですが、そんなことは周知の事実ですしわざわざ書くまでもありません。そこで、「そもそもリポCってなんなん?胡散臭くないん?」ということについて、少しだけ書こうかと思います。少しだけ、といっても巷に蔓延る「調べてみました!」「わかりませんでした!」のアクセス稼ぎ目的ゴミクソ記事とはわけが違うのでご安心ください。

 

1. ビタミンCについて

 さてそもそもこのLypo-Cという商品はビタミンCサプリメントということなので、まずはそのビタミンCについて。ビタミンCは「体に良い」「レモンやみかんにいっぱい含まれている」「酸っぱい」というイメージがあると思いますが、その正体はアスコルビン酸です。

 

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図. アスコルビン酸Wikipediaより)

 

 このアスコルビン酸は、哺乳類の細胞の恒常性を保つためには不可欠な化合物であって、抗酸化作用やコラーゲンの精製と維持、副腎皮質ホルモンやカテコールアミンの合成、脂質代謝など、様々な機能をもっております。

 動物は呼吸をしていますが、その得られた酸素を活用することでエネルギーを得ています。このエネルギーを得る過程で電子伝達系を介すのですが、このとき、どうしても副産物として活性酸素(スーパーオキシドアニオンラジカルや過酸化水素など)が生まれてしまいます。この活性酸素は反応性が高いため、生体内で核酸(DNAやRNA)やタンパク質を傷つけてしまいます。これが老化の原因にもなっています。なので、抗酸化作用のあるビタミンCを摂取することは健康に良い・お肌に良い、なんて言われているわけです。

 また、コラーゲンは細胞間の隙間を埋める結合組織の主成分のタンパク質であり、骨基質や軟骨基質にはびっしりとつまっています。そのコラーゲンにはヒドロキシプロリンという特殊なアミノ酸が含まれているのですが、そのヒドロキシプロリンの合成にアスコルビン酸(ビタミンC)が不可欠なのです。ですのでビタミンCを長期間摂取していないと、体重減少や免疫力の低下、出血、歯の脱落、傷が治りにくいなどの症状が現れてしまうのです(いわゆる壊血病です)。15~17世紀の大航海時代では船に乗って長旅をする船員が新鮮な野菜や果物を摂取できないために壊血病となり、命を落とすなんてこともよくあったらしいです。

 さて、そんな体に不可欠なアスコルビン酸(ビタミンC)ですが、ヒトやサル、モルモットでは体内で合成することができない成分なのです。これは、アスコルビン酸を生合成するための最終段階に必要な酵素、L-グロノ-γ-ラクトンオキシダーゼを欠損しているからです。体の中で合成できないとなると、外から摂取する他ありません。つまり、食事やサプリメントによって補給が必要なわけです(日本人の食事摂取基準だと成人男女の場合で100 mg/日が推奨されています)。

 

2. ビタミンCの吸収

 しかし、そんな体に不可欠なビタミンCですが、じゃあ野菜をバクバク食べればよいかというと、話はそこまでシンプルではありません。過剰なビタミンCはすぐに腎臓によって排出されてしまうため、体の中に蓄えておくことはできません。つまり毎日摂取する必要があるというわけです。そして推奨されている摂取量自体も健康状態によって変わってきます。ストレスを受けていたり、妊娠していたり、あるいは喫煙者の場合だとビタミンCの必要量も増加するといわれております。

 さらに、ビタミンCは胃腸管での分解を受けやすいということも知られております。ですので、ビタミンCを効率よく体内に取り入れるためには、この胃腸管での分解をなるべく遅くし、吸収を促進させてやる必要があるわけです。

 

3. リポソーム

 そこで、この効率よく吸収するための技術として「リポソーム」が着目されているわけです(ようやくでてきた)。リポソームは脂質小胞よも呼ばれている、人工膜のひとつです。細胞膜はリン脂質という親水性と疎水性の両方の性質を持った分子が向かい合うことによって形成されていますが、リポソームはそれと同じように、人工的に脂質の膜を作り、その膜の中に体内に必要な成分(ここではビタミンC)を閉じ込めてやろう、という技術です。実はリポソーム自体は目新しい技術ではなく、1960年代からその開発は始まっています。それが実用可能レベルになるのはもっと後のことですが。

 

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図.リポソーム(Wikipediaより)

 

  脂質の膜で覆うことによって、消化管におけるアスコルビン酸(ビタミンC)の分解を遅らせることができ、高い吸収レベルを維持すること報告されています。また、アスコルビン酸(ビタミンC)を一時的に大量摂取すると、胃腸管を刺激しすぎて下痢などを引き起こしてしまいますが(下痢となるとせっかく摂取しても流れてしまうので無駄になってしまう)、その胃腸管への刺激も低減されると報告されています。つまり、胃腸管に長くとどまってくれるというわけです。さらに、この脂質膜自体も体に有益な生理学的効果を持っているとのこと。

 つまり、脂質膜でビタミンCをカプセル化することによって、腸管吸収効率のアップ、医薬品としての安定性の向上、腸の保護などのメリットが挙げられるわけです。リポソームってすごい。

 なかなか毎日安定してビタミンCを摂取できない場合、こういった製品で補給するのも良いかもしれません。ただ、お値段も普通のビタミンCのサプリメントに比べるとお高い印象ですので(まぁ仕方ないところでしょう)、そこはまぁ考えもんなのかもしれませんが…(30包/箱 7200円は「ほほぅ…」って感じでした)

 

 という、リポソームについてのお話でした。

 あと最後に。

 

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 ウェブCMメイキング動画のめいちゃん(東村芽依さん)がめちゃくちゃ可愛い。

 私からは以上です。

 

 

(参考文献)

1. 生化学辞典(第4版), 東京化学同人(2007)

2. 栄養科学シリーズ 分子栄養学, 講談社(2018)

3. Davis, J.L., Paris, H.L., Beals, J.W., Binns, S.E., Giordano, G.R., Scalzo, R.L., Schweder, M.M., Blair, E., Bell, C. (2016).  Liposomal-encapsulated Ascorbic Acid: Influence on Vitamin C Bioavailability and Capacity to Protect Against Ischemia-Reperfusion Injury. Nutr. Metab. Insights, 25–30.

4. Łukawski, M., Dałek, P., Borowik, T., Foryś, A., Langner, M., Witkiewicz, W., Przybyło, M. (2019). New oral liposomal vitamin C formulation: Properties and bioavailability. Journal of Liposome Research, 1–8.