後ろ向きには最適の日々

雑駁なあれこれ

僕とスマホとビッカメ店員

 一ヶ月以上前のことであるが、ある日、急にスマートフォンが故障した。それはそれは見事な故障っぷりであった。腕の立つ剣士に切られたら切られたことに気づかない、みたいな話があるけど、まさにあんな感じであった(大嘘)。その日、スマホをポチポチしてたら急に画面がブラックアウトしたのだが、原因はもちろんわかっている。その日の昼間、作業着のポケットにスマホを入れて汗びっしょりで牛舎で仕事をしていたのだ。防水防塵機能のないスマホをポケットに入れて。おそらくそれが原因なのだろう。「はー防水機能のないスマホって本当に水に弱いんだなぁ」なんてアホ丸出しの独り言が出たけれども、壊れてしまったモノは仕方ない。

 とはいえ、自分自身スマホにそこまで依存した生活を送っていたわけでもないので、それほど影響はなかった。LINEもパソコンで返信できるし、電話はガラケーを持っているので全く困らない。本格的におじさんみてぇだな、と思ったけれど、まぁとりあえずそのまま過ごしていた。機種変更も面倒くさい。

 そんなわけで一ヶ月くらいそのままズルズルとスマホなしで過ごしていたのだけれども、「さすがにいい加減スマホ持ってもいいかなぁ」とふと思い立ち、先日、新しい機種を買いに量販店へ出かけたのであった。こういうのはその時の勢いが重要なのだ。

 だが、店舗では気をつけなくてはいけない。あいつら(店員)はハイエナの如くこちら(お財布)を狙っているのだ。少しでも隙を見せたものならば、懐に入られ喉元(お財布の紐)を食いちぎられてしまう。そうなってしまえば最後、ヘンテコ機種を買わされ、へんちくりんなプランを契約させられ、支払いは滞りやがて家も差し押さえられてしまうはずだ。食うか食われるか、騙し騙されの恐ろしい人間社会。そこはビックカメラではない。サバンナであり戦場なのだ。しかしビクビクしていたら、それはそれで相手に伝わってしまう。舐められてはいけない。「おいおいボウヤがなんのようだ、ミルクでも飲んで帰んな」なんて軽くあしらわれてしまう。ここはテキサスなのだ。面倒事はごめんだぜ。

 なので、こういうのは余裕を見せる必要がある。それほどスマホにこだわりがあるわけじゃないけれど「あんたらの情報を鵜呑みにしませんよ」って大人の余裕を見せつけてやる必要があるのだ。そこで私は、「一番あたしを楽しませてくれる男と契約してあげようじゃないの」の精神で立ち向かうことにしたのだ(まだ店舗に入る前の話だ)。

 店に入りスマホ売り場に行くと、さっそく店員が近づいてくる。「何かお探しですか?」と登場したのはベビーフェイス店員。「ふーん、顔は合格じゃない」と心の中で思い、そのベビーフェイス店員に案内をしてもらうことにした。さて、まずはお手並み拝見ね。とりあえず、こちらの必要な機能としては防水防塵がついていること、高級機種は必要じゃないことを伝え、色々と機種を見せてもらう。もちろん説明されるがままではない。案内された機種に対し「この機種、メーカーが不具合を発表されてましたよね?」と揺さぶりもかける(一応、最近のスマホの情報もある程度頭に入れてから臨むのだ)。すべて言われるがままではいけない。「逆にこの機種のデメリットってお兄さんだったらなんだと思います?」と弄んだり、「そうっすよねぇ、この価格帯やったらどこかしら妥協しなくちゃいけないっすよねぇ」なんて相手をその気にさせるテクニックも織り交ぜる。恋は駆け引きなのだ。

 そんな感じで機種は決まったのだが、これはまだ第一段階。次にプランを決めなくてはならない。「こちらへどうぞ」と席を用意され、ベビーフェイス店員とのやり取りは続く。そもそもこちら新しい機種さえ手に入れば、後はsimカードを移し替えるだけで済むのだが、それだと機種は定価のままだとのこと。しかし高いプランに変更するつもりはない。「うーん…」と悩んでいると「あの、これあまり品の良い方法じゃないんですけれど…」と、とある提案するベビーフェイス店員。あら、いいじゃない、そういう泥臭い感じも好きよ。そういう男の顔もできるじゃないの…とこっちは関心しながら話を聞く。もちろん話を聞いているだけではなく、しきりに足を組み替えたり、舌なめずりをしたりと、相手をその気にさせるテクニックを繰り広げる。気分は『氷の微笑』のシャロン・ストーンだ(ちゃんと観たことはない)。

 ということで、なんだかんだ契約内容も決まり、購入に至った。「ありがとうございます!」と無邪気に笑うベビーフェイス店員が眩しい。「ふーん、なかなかイイ男だったじゃないの」とつぶやき、家路についたのだった。次にスマホを買いに行くことがあったら、またお願いしようかしら…

 

 そんなつい先日。ただスマホを買いに行っただけの一日。